相続財産管理人
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相続財産管理人
■相続財産管理人
相続開始後、相続人の存在が不明な場合には、相続財産は法人と擬制され、検察官または利害関係人の請求により家庭裁判所は相続財産管理人を選任します。
相続財産管理人は、相続人の捜索、相続財産の調査、管理、換価、清算の手続き等を行います。
ここにいう「利害関係人」とは通常、亡くなった方にお金を貸していた人などその財産に利害関係を持つ人のことをいいます。
被相続人の債権者や特定受遺者、特別縁故者などの利害関係人は、被相続人に相続財産の管理を行う権利を持った相続人がいない場合にはこの相続財産管理人を選任しなければ、相続財産から弁済を受けられず、相続財産が失われたり、隠されたりする不利益を被る恐れがあります。
相続財産管理人は、中立な立場の方が選ばれることになっており、一般的には弁護士や司法書士が選任されます。
被相続人の債権者は、相続財産法人に対する一定の手続きで、債権の一部を回収することができます。
相続人搜索の広告が出て6ヶ月しても相続人が現れず、相続人の不存在が確定し、相続人無しとなった場合、被相続人の特別縁故者は家庭裁判所に申し立てをして財産の全部または一部を分与されます。
申し立ての際には、家庭裁判所に予納金として約30〜100万円を納める必要がありますので、財産がなければ、相続財産管理人がつかないこともあります。
相続人はいるが、行方不明である場合や生死不明である場合は、相続財産法人は創設されません。
■相続財産管理人の選任が必要なケース
1.相続人にお金を貸していた
相続財産管理人が選任されると、債権者は債権の存在を証明して、必要な支払いをしてもらうことができます。
2.相続人となる人がいない
被相続人に法定相続人となることができる親族がまったく存在せず、遺言もない場合には、相続財産管理人の選任が必要です。
3.相続人全員が相続放棄をした
この場合、申し立てをするのは元の相続人です。
4.被相続人より特定遺贈を受けた
5.相続人がいないケースで、被相続人と生前特別の縁故があった人がいる場合
特別縁故者とは、法定相続人ではないけれども、被相続人と特別な関係にあった人のことです。
特別縁故者は、相続債権者や受遺者に対する弁済が行われた後に家庭裁判所に申し立てを行って審理を受けた後、相当性が認められれば、相続財産の分与を受けることができます。
■相続財産管理人選任の申立
●申立人
利害関係人(被相続人の債権者、受遺者、特別縁故者、遺言執行者、検察官など)、検察官
●申立をする裁判所
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
●必要書類等
相続財産管理人選任の申し立てには次のような書類が必要です。
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡者がいる場合、被相続人の子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の兄弟姉妹で死亡者がいる場合、その者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の兄弟姉妹の代襲者(甥、姪)で死亡者がいる場合、甥姪の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・相続財産を証明する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金通帳の写し、残高証明書など)
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申立人の利害関係を証する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書の写しなど)
・相続財産管理人の候補者がいる場合は、候補者の住民票または戸籍附票
●申し立てに必要な費用
・収入印紙800円
・連絡用の切手代
・官報公告料
・予納金
申し立て後に、申立人が裁判所に対して支払うお金があります。これは相続財産の管理費用が足りなかった場合に備える家事予納金で、事案の複雑さによっては数十万から100万円程度になることもあります。
相続財産管理人の報酬は相続財産から支払われますが、相続財産が不動産のみであったり、預貯金や現金が少なくて報酬が支払われないと見込まれるときは、家事予納金の中から支払われることもあります。
【選任後の流れ】
① 相続財産管理人の選任が公告される
家庭裁判所が相続財産管理人を選任すると、その後相続財産管理人を選任したことを知らせる公告を2ヶ月間、官報への掲載等によって行います。この官報公告には、相続人搜索の意味合いも兼ねています。
② 相続財産管理人による相続財産の調査と管理
相続財産管理人は、相続財産を調査し、財産目録を作成、不動産の名義人表示変更をします。
③ 相続債権者・受遺者に対する請求申し出の公告
2ヶ月を超える一定期間内に債権の申し出または受遺者である旨の申し出をするように官報に公告します。
申し出があれば弁済します。
④ ②の公告から2ヵ月が経過してから、家庭裁判所は、相続財産管理人の申立により、「相続人を捜すため、6ヶ月以上先に満了期間を定めた公告」をします。公告期間中に相続人からの届出がなければ、相続人がいないことが確定します。
⑤ ③の公告の期間満了後、3ヶ月以内に「特別縁故者に対する財産分与」の申し立てをすることができます。
特別縁故者とは、被相続人と長い間同居していた者や、被相続人の療養看護に努めていた者など、被相続人と特別な縁故があった人のことをいいます。
家庭裁判所により、特別縁故者に対する相続が相当と認められて場合は、相続財産の全部または一部を特別縁故者へ分与する旨の審判がなされます。
特別縁故者への財産分与の手続きを経てもなお、相続財産に余りがある場合、その残余財産は国庫に帰属します。
申し立てに必要な費用
・収入印紙800円
・連絡に必要な郵便切手
必要書類
・申立書1通
・申立人の戸籍謄本1通
・被相続人の戸籍(除籍)謄本1通
特別縁故者として相続財産を受け取る場合は相続税も発生します。
⑥ 財産管理人は、随時、裁判所の許可を得て、被相続人の不動産や株を売却し、金銭に換えることもできます。
⑦ 不動産持分の共有者への帰属
相続人、特別縁故者、受遺者、相続債権者がいない場合において、被相続人の相続財産の中に不動産の共有持分がある場合には、その不動産の共有持分は他の共有者に持分割合に応じて帰属します。
⑧ 管理終了報告
■相続財産の清算・弁済
2ヶ月以上の官報公告期間が満了すると、管理人は債権者・受遺者に対して弁済を開始します。債権者が複数いる場合には、債権額の割合に応じた額を弁済します。
請求申し出をした受遺者がいる場合には、債権者への弁済をしてなお余りがあった場合に、債権者へ弁済した後に清算します。
なお残余財産があれば、限定承認者がそれを取得し、共同相続人がいれば、遺産分割をすることになります。
残余財産が残らなければ、手続きは終了します。
■最終の相続人搜索の公告
相続債権者・受遺者に対する請求申し出の広告期間の満了後、なお相続人があることが明らかではない場合、管理人または検察官が管轄の家庭裁判所に対し、申し立てることにより、6ヶ月以上の期間を定めて相続人搜索の公告を行います。
具体的には、家庭裁判所の掲示板に掲示し、かつ、官報に掲載する方法により行われます。
相続人が現れると、相続人への財産分与が行われ、手続きは終了します。
相続人が現れないとき、現れても相続を承認しなければ相続人の不存在が確定します。
■相続人不存在確定
6ヶ月以上の期間が満了し、なお相続人が現れない場合は相続人の不存在が確定します。
相続人不存在の場合、相続財産は法人となります。
■特別縁故者分与申し立て
相続人不存在の確定後3ヶ月以内は特別縁故者による相続財産分与の申し立てが認められます。
家庭裁判所は、申立人を特別縁故者と認定したときは、その者に残余財産の全部または一部を分与することができます。
■国庫への帰属
最終的に財産が残れば、残った財産はすべて国庫に帰属します。
国庫帰属は金銭で行われることがほとんどです。