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自賠責保険とは
自動車損害賠償責任保険(略称:自賠責保険)とは、「交通事故の被害者が、最低限の補償を受けられるように」と、1995年の自動車損害賠償保障法施行に伴い国が始めた制度です。自動車損害賠償保障法によって、自動車(農耕作業用小型特殊自動車、構内専用車、自衛隊・米軍・国際連合軍の車を除く)および原動機付自転車を使用する際に加入が義務付けられています。
ナンバーのついた車は、所有者の意思に関係なく保険加入が義務付けられている事から、俗に強制保険とも呼ばれます。自賠責保険未加入の車で公道を走行した場合は、自賠法により1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則を受けます。
自賠責保険は保険料が安く、保険金の差し押さえは禁止されています。
車の車検を受けるためには、その車検期間に有効な自賠責保険に加入していなければなりません。被害者への最低限の保障の確保を目的としているので、被害者に過失がある場合でも過失相殺による減額が緩やかになっています(重過失減額)。
自賠責保険は、対人賠償保険ですので、物損はカバーされません。
運転者本人の怪我については、任意保険や傷害保険、医療保険、入院保険などが必要です。
自賠責保険は、事故を起こした本人には適用がありませんが、同乗者が交通事故で障害を負った場合には、自賠責保険の請求ができます。妻が自賠責でいう「他人」に該当するかが争われたことがありましたが、裁判所は、妻も自賠責でいう他人であると判断し、同乗の妻のも自賠責保険が支払われるようになりました。
自賠責保険では、あくまでも、怪我をしたほうが被害者で、させた方が加害者です。また、自賠責保険の保険金は、被害者に重大な過失があった場合以外は減額されないので、例えば自分に一定の過失があっても、ケガをしていれば「被害者」ということになり、相手の自賠責保険から保険金が支払われます。
支払われる保険金額には上限があり、支払限度額は、被害者1名ごとに定められています。1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者の支払限度額が減らされることはありません。
当座(治療費等)の出費に当てるため、被害者に対する仮渡金制度があります。
交通事故が発生した場合の保険金の上限が被害者1人につき死亡3000万円(葬儀費、逸失利益、被害者本人の慰謝料及び遺族の慰謝料の合計)・後遺障害4000万円までと低いなどの不足分もある為、それを補う為任意の自動車保険に別途加入する事が一般的になっています。しかし任意保険は民間企業の営利事業であるため、自社の支払いを回避するべく、自賠責保険によって担保される範囲のみに保障を押さえ込むことが日常的に行われています。
車検のある自動車や250ccを超えるオートバイの場合は、車検ごとに契約更新を行いますが、車検のない250cc以下のオートバイでは本人の知らない間に保険が切れている事が多いため、注意が必要です。保険加入の際に発行されるステッカーを時々確認してみましょう。コンビニエンスストアや郵便局でも加入等の手続きが出来ますが、250cc以下のバイクの自賠責を取り扱っていないコンビニもありますので注意してください。
小型バイクの自賠責の保険期間は、1年から5年の内から選ぶことができます。
自賠責保険の証明書を車に積んでいないと、それだけで30万円以下の罰金。
自賠責保険に加入する義務があるにもかかわらず、加入しないまま自動車・原動機付自転車を運行させた場合は無保険運行となり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられるほか、道路交通法上の違反点数6点が加算され、運転免許の停止・取消し処分がなされます。(ただし過失の場合はその限りではない。)
傷害を負った場合
事故により被害者が傷害を負った場合は、積極損害(治療に関する費用等)、休業損害及び慰謝料の合計に付いて支払い限度額の範囲内で支払われます。
支払い限度額 120万円
日本医師会は、「通事故の治療費は、自賠責保険制度を優先させ、その範囲では自由診療を求める」という考え方をとっていますが、健康保険か自賠責保険かの選択権は患者にあります。
自賠責保険では、ケガをした人、死亡した人が被害者です。
※ただし、被害者に重大な過失があった場合は、下記のように支払限度額から減額されます。
被害者の過失 | 後遺障害の場合 死亡の場合 | 傷害の場合 |
7割未満 | 減額なし | |
7割以上 8割未満 | 2割減額 | 2割減額 |
8割以上 9割未満 | 3割減額 | |
9割以上 | 5割減額 |
重過失の判定は、「民事訴訟法における過失相殺率の認定基準」に従い自賠責算定委員会が行います。
②傷害事故の場合の自賠責保険の内容(限度額120万円)
費目 | 定義・内容 | 支払基準 |
治療費 | 応急手当費、診察料、入院料、投薬料、手術料等の費用 | 必要かつ妥当な額 |
看護費 | 入院中の看護料 12歳(小学6年生)以下の子供に近親者が付き添った場合 | 1日につき4,100円 |
自宅看護料または通院看護料 12歳以下の子供に近親者が付き添った場合 医師が看護の必要性を認めた場合 | 必要かつ妥当な実費 近親者の場合、1日につき2,050円 | |
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 必要かつ妥当な額 |
諸雑費 | 入院中の諸雑費 | 入院1日につき、1,100円 |
義肢等の費用 | 義肢、歯科補綴(※)、義眼、補聴器、松葉杖などの費用 | 医師が認めた必要かつ妥当な実費 |
診断書等の費用 | 診断書、診療報酬明細書などの発行費用 | 必要かつ妥当な額 |
文書料 | 通事故証明書、印鑑証明書などの費用 | 必要かつ妥当な額 |
休業損害 | 事故による障害のために発生した収入の減少 | 1日につき5,700〜19,000円 |
慰謝料 | 精神的・肉体的な苦痛に対する補償 | 入通院1日につき4,200円 (【実治療日数×2】と【治療期間】のどちらか少ないほうで計算) |
※歯科補綴:歯が欠けてしまったり失ってしまった場合に、クラウンや入れ歯などの人口歯を使って補うこと。
※休業損害は、実際に休んだ日が対象になります。認定に必要な書類は、被害者の勤務先が出す「休業損害証明書」と「源泉徴収票」が必要です。
③死亡の場合(限度額3,000万円)
費目 | 定義・内容 | 支払基準 |
葬儀費 | 通夜から初七日までの法要費用、祭壇料、火葬(埋葬)料、墓石、仏壇の購入費 (墓地購入費、永代供養費、香典返しなどは除く) | 60万円。60万円を超える場合(立証が必要)は「社会通念上必要かつ妥当」な範囲で認定され、最高100万円まで支払われます。 |
逸失利益 | その人が生きていたら、得られたであろう所得のことをいい、年齢、性別、職業などによって異なります。 | (年間収入額−年間生活費)×就労可能年数のライプニッツ係数 |
慰謝料(本人) | 被害者本人の慰謝料。 | 350万円 |
慰謝料(遺族) | 被害者の父母(養父母を含む)・配偶者および子(養子、認知した子及び胎児を含む)が請求権者となります。 | 1名:550万円 2名:650万円 3名以上:750万円 被害者に扶養家族がいるときは、その人数にかかわらず上記金額に200万円が加算されます。 |
死亡に至るまでの傷害 | 傷害による場合と同じです。 |
③被害者請求
自賠責保険の請求は、加害者が賠償金を被害者に支払った後に請求する加害者請求(15条請求)と被害者が加害者が加入している自賠責保険会社に請求する被害者請求(自動車賠償責任保障法第16条請求)とがあります。
被害者請求には示談成立は考慮されないため、示談後に被害者請求を行うことは可能です。
自賠責保険会社は、被害者請求があった場合、自賠法施行令第4条に基づき、加害者側の意見を求める書面を送付します。
これには、被害者が請求の際に報告した事故状況等に相違が無いか、加害者が被害者側に支払った金員で自賠責保険に未請求のものがないかなどを回答する内容です。
被害者請求は、請求時点までの治療費・休業損害・慰謝料等の支払いを受けることができます。
しかし、加害者側の保険会社が対人一括払い対応をしている場合は、一括社(加害者側の任意保険会社)が自賠責保険会社に現存確認(加害者の自賠責保険が有効かを確認)をしているため、事実上、被害者は支払いを受けることはできません。
一括社は事故日から1年を経過すると、自賠責保険会社に中途精算を請求できますが、それ以外は示談後に請求する最終精算となります。
被害者請求では、後遺障害診断書にMRIやXPなどの画像等と一緒に、自賠責保険会社に提出し、自賠責保険会社より損害調査事務所へ書類は送付されます。
被害者の手間暇は取られますが、自身を納得させることができます。等級認定がされると、自賠責部分の賠償額が早い時期に支払われますので、腰を落ちつけて任意保険会社と示談交渉を継続できます。
被害者側の過失が大きい場合、事故の相手側が治療費などの支払を渋る場合があります。そのような場合も被害者請求をする場合があります。
自賠責に被害者請求をすると、自動的に任意一括は解除されます。自賠責への被害者請求は自賠法16条で認められた権利です。
被害者請求をする3つの重大な理由
★後遺障害認定に要する時間を短縮できる
★後遺障害認定に対する任意保険会社の妨害を排除できる
★自賠責保険の支払う保険金をすぐに受け取ることができる
④加害者請求
加害者請求は、被害者に損害賠償金を支払った上で、その領収証、その他必要書類を沿えて保険金の請求をする方法です。人身事故では多くの場合、加害者が治療費を支払います。加害者(及び加害者側保険会社)はこの加害者請求制度を使い治療費のうち120万円までを自賠責保険でまかないます。
保険会社は、以下の4つのタイミングで自賠責保険から立て替え金を回収します。
①事故から1年を経過したとき
②損害額が120万円を突破したとき
③示談解決したとき
④被害者請求が行われ、任意一括が解除されたとき
加害者請求は、すでに支払ったものの回収ですから、被害者請求に優先します。
⑤任意一括による事前認定
任意一括(一括払い、一括対応)とは、加害者側の保険会社(一括社)が、自賠責保険の分も含めて被害者に支払うことです。事故がおきて、保険会社の方が駆けつけ、他に相談者のいない被害者は、保険会社の担当者に任せきりになります。多くのケースでは任意一括で事は進められていきます。
任意一括社が自賠責保険会社を通じて、損害保険料率算出機構に後遺障害診断書やMRI/CT/X線などの画像資料を送付し、後遺障害の等級認定の申請をするのが事前認定です。これは、後遺障害等級が自賠責保険による認定と、任意保険会社が行う認定との違いが出ないように確認する手続です。
損害保険料率算出機構は、調査事務所に認定を委託しています。
調査事務所が認定する上で追加資料が必要だと考えた場合には医療機関に照会が必要になります。ここで問題となるのが、その照会を行うのが調査事務所から依頼を受けた任意保険会社が行うということです。医療機関に照会を行うだけでなく、意見書を添付して調査事務所に送付されます。任意保険会社が医療機関に対して、適正な等級認定が受けられるように積極的に働きかけることはありません。後遺障害が認定されると、自賠責保険の補償額超える支払額が増えるわけですから、積極的な気持ちが萎えるのかもしれません。
このあたりが被害者請求と一括請求の大きな違いになります。さらに、後遺障害が認定されても保険金被害者は保険金を直接受け取ることができません。示談が成立するまで待つことになります。被害者請求の場合は、後遺障害等級に応じた保険金が請求者の口座に直接振り込まれます。
後遺障害の認定申請において、後遺障害診断書等が必要になりますが、残念なことに、後遺障害診断書が、必ずしも被害者の身体の状態を漏れなく記載されているとは限りません。医者が書くのだからと思われるでしょうが、医者は治療をして、患者が負った傷害を直すことに使命感を持っています。全力をつくして治らなかったことを認めることになる後遺障害診断書を書くことには、いつまでも慣れないのです。
後遺障害診断書には、検査の実施漏れなど様々なケースがあります。
一括社は、示談金を支払った後に、自賠責保険部分の保険金を回収します。
⑥自賠責保険が支払われない場合
自賠責保険は、無責事故(100%被害者の過失が100%の事故)に対しては支払われません。
但し、無責となる事故は数少ないものです。
⑦労災保険との関係
健康保険の場合と同じく、労災保険による場合は、「第三者行為災害届」を提出しなければなりません。
労災保険では、自賠責との協定で自賠責保険を優先することになっています。
⑧被害者請求の時効
ケガの場合は、事故日の翌日から2年、後遺障害が残ったときは症状固定時の翌日から2年、死亡の場合は死亡日の翌日から2年です。加害者請求の場合は、被害者に賠償金を支払った日の翌日から2年となっています。2年以内に請求できそうにないときは、時効中断届を提出して時効を中断させることができます。
仮渡金や内払い金が支払われたときなども、時効が中断します。
任意一括の場合は、相手方の任意保険会社がすべてやってくれますので、時効のことはさほど考えなくても良いでしょう。任意一括を解除したときは、そのときから時効が進行します。
※平成22年4月1日以降発生の事故について、保険法及び自動車損害賠償保障法における保険金等の請求権の時効が2年から3年に改正されています。
⑨加害者請求の時効
平成22年4月1日以降に発生した事故については、加害者が被害者や病院などに損害賠償金を支払った日の翌日から3年(分割して支払ったときは、それぞれ支払った日の翌日から3年)で時効になります。
軽自動車の自賠責保険料(平成23年1月1日現在)
12ヶ月 13,600円
24ヶ月 14,300円
25ヶ月 22,650円
36ヶ月 30,170円
37ヶ月 30,840円
原付(50cc〜125cc)の自賠責保険料(平成23年1月1日現在)
1年 7,280円
2年 9,420円
3年 11,520円
4年 13,580円
5年 15,600円
⑫バイク自賠責保険(125cc〜250cc)の保険料(平成23年1月1日現在)
1年 9,260円
2年 13,350円
3年 17,350円
4年 21,280円
5年 25,130円
⑬重過失減額
任意保険では過失割合に応じて賠償額が減額されますが、自賠責保険の場合は、被害者救済という目的から被害者に重大な過失があった場合に限って賠償額の減額がなされます。自賠責保険の場合は過失相殺といわずに「重過失による減額」といいます。
傷害 | 70%未満 | 減額なし |
70%以上100%未満の過失 | 20%の減額 | |
100% | 無責で支払いなし | |
死亡・後遺障害 | 70%未満 | 減額なし |
70%以上80%未満の過失 | 20%の減額 | |
80%以上90%未満の過失 | 30%の減額 | |
90%以上100%未満の過失 | 50%の減額 | |
100% | 無責で支払いなし |
⑬自賠責保険未加入
被害者の救済を目的とする自賠責保険(共済)は、公道を走る原動機自転車を含むすべての自動車に加入が義務付けられています。
自賠責保険(共済)に加入していなくて、任意保険に加入していても、自賠責保険(共済)の補償限度額を超えた金額のみしか支払われません。
自賠責保険未加入、または自賠責保険の期限切れの状態で車を動かした場合の罰則は、50万円以下の罰金、または1年以下の懲役、違反点数6点、免許停止処分等です。
車に自賠責保険の証書を置いていない場合は、30万円以下の罰金になります。
自賠責保険の証明書がなければ次の車検は受けることができません。
車検のない250cc以下のバイクや原付自転車に乗っている方は、自賠責保険の期限切れには注意してください。
バイク自賠責保険に加入している場合は、バイクのナンバープレートにステッカーが貼ってあり、有効期限も分かります。
盗難車での事故やひき逃げ等の場合も自賠責保険未加入の状況と同じになりますが、救済制度として「政府保障事業制度」があります。
自賠責保険はコンビにでも加入手続きができます。
⑭無免許運転や飲酒運転と自賠責保険
無免許運転や飲酒運転で事故を起こした場合でも、自賠責保険は支払われます。自賠責保険は被害者を救済するための保険だからです。(任意保険の対人賠償保険も適用になります)
ただし、運転者自身の怪我や車の損害については支払われません。
被害者が、泥酔運転、50キロを越える速度超過など100%の過失があるときも適用されません。
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