1.高次脳機能障害とは

2.高次脳機能障害の具体的な症状

3.高次脳機能障害と後遺障害認定

4.認定のポイント

5.高次脳機能障害での認定等級

6.認定等級の違い

7.検査・評価のサポート

8.活動理念・活動方針

1.高次脳機能障害とは

交通事故等で頭部を強打した場合など、脳に損傷を受け、記憶障害、注意障害、人格変性(怒りっぽくなったりします)などが生じることです。

脳損傷は、事故で外力を受けた場合の一次性損傷と、頭蓋内出血等により脳が圧迫されて損傷する二次性損傷があります。

平成19年の自賠責保険の報告書では、「脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは、永続的な高次脳機能障害が残ることが多い」と記載されています。

「高次脳機能障害」とは、脳損傷が原因の認知傷害全般を指し、この中にはいわゆる巣症状(脳の器質的病変によって生じる精神機能の障害)としての失語・失認(ある一つの感覚を介して対象物を認知することができない障害のこと)のほか記憶障害、注意傷害(人間が日常生活に支障をきたすようになるほどの傷害の一つであり、注意が散漫になったり落ち着いて物事に取り組むことが困難になる)などが含まれます。

高次脳機能障害は外見上ではわかりにくく、本人も家族も認識がないことが多く、周囲に理解されにくい障害です。

■意識障害

意識レベルの評価には、JCS(Japan coma scale)とGCS(Glasgow coma scale)があります。 

(coma:昏睡状態。Glasgow:英国の グラスゴー大学によって発表された意識障害の分類)

世界的にはGCSが普及していますが、日本国内ではJCSが普及しています。

JCSは覚醒度によって3段階に分け、それぞれ3段階あることから、3−3−9度方式とも呼ばれます。

JCS

刺激しないでも覚醒している状態

(1桁で表現)

1 大体意識清明だが、今一つはっきりしない
2 見当識障害がある
3 自分の名前、生年月日が言えない
刺激すると覚醒する状態。刺激をとめると眠り込む(2桁で表現) 10 普通の呼びかけで容易に開眼する
20 大きな声又は体をゆさぶることにより開眼する
30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する
刺激しても覚醒しない(3桁で表現) 100 痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする
200 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる
300 痛み刺激に反応しない

GCS

開眼機能

Eye opening

(E)

自発的に、又は普通の呼びかけで開眼
強く呼びかけると開眼
痛み刺激で開眼
痛み刺激でも開眼しない

言語機能

Verbal response

(V)

見当識が保たれている
会話は成立するが見当識が混乱
発語はみられるが会話は成立しない
意味のない発声
発語みられず

運動機能

Motor response

(M)

命令に従って四肢を動かす
痛み刺激に対して手で払いのける
指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動
痛み刺激に対して緩徐な伸展運動
運動みられず

「E○点、V○点、M○点、合計○点」と評点されます。正常は15点満点で深昏睡は3点です。点数は小さいほど重症です。

2.高次脳機能障害の具体的な症状

■記憶障害
記憶機能は、「記銘」、「保持」、「追想(あるいは想起)」の三段階から成り立つとされています。

「記銘」機能により覚えこみ、「保持」機能で維持し、「追想」機能によって思い出します。

コンピューターに例えれば、データの入力作業が「記銘」、ハーディスクなどにデータを保存しておくのが「保持」、データを検索して取り出すのが「追想」と言うわけです。

実際に確認できるのは「追想」だけですが、理念上は上記のように考えられています。

これに合わせて、記憶の障害は、大きく分けると記銘の障害と、追想の障害に分けられます。

・短期記憶 

 数十秒間に、新しい物事を記憶するものです。

・長期記憶

 短期記憶によって保持された記憶が定着したものです。 

 強い刺激を受けると、記憶が長く残ることを、三菱化学の研究チームが突き止めました。

 短期記憶はよくないが、長期記憶はよい、という傾向は記憶障害によく見られる傾向です。

(1)宣言記憶

 宣言記憶はさまざまな事実に関することを学習によって覚えて、言葉で表現することができる記憶です。以下の二つに分類されます。
・エピソード記憶:「昨日、イタリアンレストランで彼女と1時間の時間をすごした」というような個人的、日記的な経験やその時間内関係に関する記憶がエピソード記憶です。イベント記憶ともいいます。

・意味記憶:言語や物事の意味に関する知識に該当する記憶です。

(2)非宣言記憶

・手続き記憶:車の運転や箸の使い方など、物事を無意識的にしている習慣ややり方についての記憶(いわゆる「体で覚える」記憶)です。一度記憶するとなかなか忘れません。

・プライミング記憶:先行する事柄が後続する事柄に影響を与える効果。

■注意障害

ぼんやりしていて、何かをするとミスばかりする。二つのことを同時にできない。

①全般性注意障害 注意が散漫になりほかの刺激に注意を奪われやすくなります。

②容量性注意障害 一度に処理できる情報量が低下します。日常生活において短い会話は理解できても、長い会話になると理解が困難になります。

③持続性注意障害 

注意を持続的に集中することが困難になります。障害が軽度の場合には、比較的短時間の集中は可能ではあるものの長時間にわたり注意を集中しつづけることはできなくなります。

④選択性注意障害 

必要に応じて特定の刺激に対して注意を向けることが困難になります。

■遂行機能障害

物事を計画を立ててすることができない。人の指示がないと物事ができない。その場限りの行動をする等です。 前頭葉の障害によって発症することが多いようです。

遂行機能とは具体的には以下のような行動です。


・目的や目標を明確に意図する

・目的や目標を達成するための計画を立てる

・行動の実行手順を立てる

・行動に優先順位をつける

・実際に行動する

・周囲の変化に対応する

・行動の結果を正確に評価する

・行動した結果の評価に基づき、目的や目標にかなうように次に行う行動をより適切・効率的に修正する

遂行機能障害とは上記のように、物事や行動を論理的に考え、計画し、状況の変化に対応することができなくなることです。


具体的な症状

①「意図・計画」過程の障害

・自分で計画を立てられない

・いつまでも決断ができない

・思いつきだけで行動する

・物事の取り掛かりが遅い

・自発的に物事を行わない

・約束した時間が守れない

・順序立てた行動ができない

・繰り返し同じような行動を行う

・状況の変化を受け止め、臨機応変な対応ができない

・行動が子供っぽい

②「実行・評価・修正」過程の障害

・活動の実行手順の段取りや効率が悪い

・物事の優先順位がつけられない

・自分の行動の見通しが立てられない

・効率よく仕事ができない

・判断や決断が悪い

・自分に対する他人の思いに関心がない

・他人の心情に配慮しない

・機転が利かない

③「目標保持」過程の障害

・いきあたりばったりの行動をする

・注意が散漫である

・目の前の出来事に行動が左右されやすい

・仕事が決まったとおりに仕上がらない

・行動に一貫性がない

・失敗経験を次に生かせない

・行動を目標に合わせて維持し続けられない

・先を見越した行動が取れない

・些細なことにとらわれやすい

・行動にまとまりがない 

■見当識障害 

現在の年月日時、周囲の状況、自分が置かれている場所場所、人物や周囲の状況を正しく認識する能力を傷害されていることを言います。


■病識欠如
自分が障害を持っていることの認識ができない。障害がないかのような言動をする。

■人格障害 

感情、行動が大きく偏り、非適応的になっている状態です。

感情易変、易刺激症、不機嫌、攻撃性、暴力、病的嫉妬。

自発性・羞恥心が低下していることもあります。

■行動障害

①挿話性脱制御症候群

突然怒り出したり、暴力的な、衝動的な行動を起こします。大脳辺縁系を含めた側頭葉内側部の障害により起こるとされています。

②前頭葉性社会行動障害又は獲得性社会病質

・話の内容が場にそぐわない

・すぐ他人を頼る

・羞恥心が低下する

・子供っぽくなる

■情動障害

①うつ状態

・気分顔と込む

・新聞やテレビを見る気にならない

・やる気がわいてこない

・自己を過小評価する

・心身ともに疲れを感じる

・身だしなみに関心が薄れる

・わけもなく悲しくなり、悲しみから抜け出せない

・疎外感を感じる

・自殺を考える

・仕事にとりかかる気持ちがなかなかわいてこない

・思考がまとまらない

・根気がない

・人と話をするのがおっくう

・いらいらして落ち着かない

・決断がなかなかつかない

・自分を否定したり責めたりする

・頭が重い、身体がだるい

・便秘や下痢

・寝つきが悪く、眠れない

・耳鳴りがする

・食欲が落ちる

・性欲が落ちる

 などの症状が現れます

②躁状態、多幸症(上機嫌症)

何もかもが幸せに感じて、気分が著しく高揚した状態になります。

・「自分は偉い」「自分は正しい」と思い込む

・支離滅裂な言動をする

・眠らなくても平気になる

・異常に活動的で落ち着きがない

・早口でおしゃべりになる

・アイデアが次々に浮かぶ

などですが、深刻な問題も引き起こします。

患者自身は病気と感じていることは少なく、他人に対して高圧的になったり、無理未知なことを実行しようとしたりして人間関係を著しく損ねることになります。

③その他

・無感情 英語でアパシィと言います。ぼーとして何の感情も表さなくなった状態です。

 事故で前頭葉が損傷すると感情を失うことがあるようです。

 (余談:「男は感情を表に出してはいけない」と言う通念が存在し、何か起こったときに、顔色を変えないこ  とが、男としての本懐であると考えられたり、それが男のプライドであると思っていたとしても、感情として表現されないストレスは自身の身体に影響を続けます。ストレスによる心身症に罹患しやすいことがすでに言われています。)

・情動不安定・情動失禁 感情が不安定になり、結果を考慮せずに、衝動によって行動をします。わずかなことで激しい怒りに駆られて乱暴し、あるいは自傷行為や自殺企画を繰り返します。これらは衝動行為が他人に非難されたり、邪魔をされたりすると容易に促進されます。

さらに、わずかな刺激でも感情の抑制が効かなくなる状態を情動失禁(感情失禁)といいます。この場合に失禁とは排尿・排便ではなく、泣くことです。

・強制泣き・笑い 感情や情動の障害の1つで、おかしくもないのに笑ったり、悲しくもないのに泣いてしまう症状です。誤解されやすい病気です。脳出血が原因となって発症することがあるようです。

・ふざけ症 前頭葉の障害で、無意味な駄洒落や冗談を言ったりします。モリアmoriaともいいます。

④失語症

大脳には、言葉を受け持っている「言語領域」という部分があります。失語症は、脳出血などの後遺症で、この「言語領域」が傷ついたため、言葉の能力に障害が残った状態を言います。話すことだけでなく、聞くこと、書くこと、読むことも不自由になります。

具体的な症状

話す

・言いたい言葉が出てこない(喚語困難)

・言葉を言い間違える(錯誤)

・ある語を、別の語と取り違えて使う

・思ったことと違う言葉を言う

・限られたいくつかの言葉が繰り返し出てくる(残語)

・まわりくどい表現になる

・発音がたどたどしくなる

・同じ言葉が何度も繰り返される(保続)

・音がつかえたり、間違えたりする

聞く

・言葉の意味がわからない

・聞いた内容を頭にとどめておくことが困難

・聞き取りの早さや量に限界がある

書く

・文字が思い出せない

・書き誤りがある

読む

・読んで理解することができない

・計算ができない

・声を出して読むことができない

半側空間無視・半側身体失認

①半側空間無視

 空間の左右いずれかの半側を認知できず無視するといわれています。右半球傷害による左側半側空間無視が一般的です。左半球傷害による右側半側空間無視も存在しますが、左半球障害が起こると通常失語症が前面に出てくるようです。

「半側」といいつつも、認識できない一定の境界が存在するわけではありません。

半側空間無視は高次脳機能障害の代表的な症状です。

半側空間無視は大まかに分けて3種類あります。

・左半身の無視

・自分の近くの左側の空間の無視

・周りの左側の無視

具体例としては、歩いていて左側にある壁や障害物にぶつかったり、食事のときに皿の左半分を残したりします。

②半側身体失認

 身体の半身に対する認知の異常のことです。主に脳の右半球を損傷することによって左側に生じます。

症状

・身体の一部を自分のものでないように思っている

・半側の麻痺を否定する

・歩行ができないのに「歩ける」と言い張ったりする

・食事や作業で失認されている側の手足が全く使われない

・寝返りや起き上がり時に、麻痺している手足を忘れてしまう

・麻痺がないにもかかわらず半身を使わない(不使用)

・半側の喪失感や異物感を訴える

失行症 

心に思ったことや指示された動作をを実行しようとしても、思ったこととは違う行為をしたり、逆の行為をしたりすることです。

手足の麻痺・器質的な失調・意識障害・知的障害などは見られないのが特徴です。

大脳の特定部位の局所的損傷によって生じます。

・観念運動執行:失行の中でも中核をなしています。単純な動作が、自発的にはできるのに命令されるとできなくなります。

・観念失行:比較的複雑な行為をするときに、個々の行為はできるのに、順序良く行うことができなくなります。行為系列化の障害です。

・構成失行:図形がうまくかけなかったり、積み木を組み立てたり、物を形作ることができなかったりします。

・着衣失行:服をうまく着ることができなくなります。衣服の前後の間違い、上着なのに足を入れようとしたりします。

3.高次脳機能障害と後遺障害認定

交通事故での損害賠償請求をする場合は後遺障害等級認定がなされていることが前提です。

後遺障害は、14等級、138種類に分類され、各等級ごとに保険金額が定められています。

後遺障害の等級認定によって損害賠償額が大きく変わりますので、相当な後遺障害等級の認定を受けるかが重要なことになります。

「後遺障害」とは、自動車損害賠償保障法施行令第2条第2項に規定されている「傷害が治ったあとでも、。身体に残っている障害」のことです。後遺障害は16等級142項目の等級に分類されています。

法的には、損害の立証責任は被害者側にあります。後遺障害が残った場合、被害者は立証資料をそろえて損害を証明していかなくてはいけません。
交通事故の損害賠償額は後遺障害の認定等級によって大きく異なります。

後遺障害の認定要件に該当するか否かの判断については、認定検者が判定しかねる程度の証明であれば、被害者の不利益に扱われます。

自賠責保険で後遺障害等級の認定手続きが行われますが、そこできちんと後遺障害が認められないことには実際の損害に応じた補償を受けることができません。 

自賠責の後遺障害認定手続きは被害者請求で行いましょう。
被害者請求をする際には、残った後遺障害をきちんと証明できるよう決められた検査(自賠責保険で求められる検査)をした上で手続きをしないと納得のいく認定がなされないことが多いので注意しましょう。

高次脳機能障害の事案によっては、「将来介護費」「自動車改造費」「自宅改装費」「将来雑費」「おむつ代、装具代などの一生分」「成年後見申立て費用」等が損害賠償の対象となります。

「将来介護費」は、症状固定後に必要となる介護費です。

高次脳機能障害だからといって、必ず自宅改装費等が認められるわけではありません。障害に応じたものでなくてはならないし、費用が必要最小限でなくてはなりません。

被害者が住んでいる家が賃貸物件の場合で、自宅購入費が認められるかを裁判で争われたことがあります。

「本件事故当時の原告の自宅が借家であって、大幅な改装ができなかったことを前提とすると、自宅マンションの購入は本件事故によって、その必要性が生じたものと認めるべきである」(大阪地裁H19/4/10判決)

交通事故後遺障害認定では多くのポイントがあり、弁護士や行政書士の能力により結果が変わることもあります。

行政書士は自賠責保険の手続きを代理する専門家です。

自動車損害賠償保障法は、被害者保護及び自動車運送の健全な発達のために成立した法律であり、自賠責保険は、強制保険として社会保障制度的に機能するものです。

後遺障害と思われる傷害を負っている場合で、正当な補償を得るためには、後遺障害の認定を受けなくてはいけません。自賠責保険の重要な手続の1つです。自賠責保険における後遺障害の認定実務は、自賠責法第16条の3に基づき、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行うと定められています。

自賠責保険は、被害者から加害者側の自賠責保険に直接賠償金の支払いを請求できるようになっています。これは自賠法16条に基づく被害者請求と呼ばれています。

被害者請求手続は、自動車事故における被害者保護行政の一環であり、「行政に関する手続」なので、行政書士の所管業務です。

被害者請求では、請求者に立証責任がありますので、請求に必要な書類や医証を収集しなくてはなりません。

家族が高次脳機能障害になったとき、家族は何をするべきでしょうか。
やはりご本人の症状・状態を理解することに勤めることです。
この障害はなかなか周囲の人に理解してもらえないことが問題となっています。
実際のところご家族ですら全てを理解して受け入れることはできないのかもしれません。
しかしそれでもご本人にとって最後に頼れるのは家族しかいないのではないかと思います。現在の症状を受け入れて、合わせることができればこれ以上の安心はないでしょう。

4.等級認定のポイント

 高次脳機能障害等級の1〜3級は判断が難しくないとされますが、5級、7級、9級については不明確な面があります。
 高次脳機能障害が問題となる事案として、以下の5条件を設定し、いずれか1つでも該当する事案については、「特定事案」として、損害保険料率算出機構に設置されている高次脳機能障害審査会で専門医が審査委員として審査が行われます。


【高次脳機能障害が問題となる事案】

①初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡〜昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁〜1桁、GCSが13〜14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
②経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷の診断がなされている症例

③経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状(*)、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例

(*)記憶・記名力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下

④頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3ヶ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
⑤その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

■神経心理学的検査

高次脳機能障害の後遺障害等級認定には、神経心理学的検査は重要な資料になります。

神経心理学的検査は、以下のようなものがあります。

●知能テスト

①長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

 1974年に長谷川和夫氏(聖マリアンナ医科大学名誉教授)が発表し、1991年に改訂版が出されました。9の質問項目で、30点万点のうち20点以下を認知症と判断する、比較的簡単で多くの人に短時間で行える利点があります。ただし、この検査は、あくまで診断の一つと考えるべきです。最近では、MMSE(ミニメンタルステート検査)が多く使われるようになり、HDS-Rは使われることが少なくなりつつあります。

 主に記憶力を中心とした認知機能障害の有無を大まかに知ることを目的とした検査方法です。

お歳はいくつですか?(2年までの誤差は正解)  0 1
今日は何年何月何日ですか?何曜日ですか?(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)


曜日
 0 1
 0 1
 0 1
 0 1
私たちが今いるところはどこですか?
(自発的にでれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?の中から正しい選択をすれば1点)
 0 1 2
これからいう3つの言葉を言ってみてください。後でまた聞きますのでよく覚えておいてください。(以下の系列のいずれか1つで、採用した系列に○印をつけておく)
1: a)桜 b)猫 c)電車
2: a)梅 b)犬 c)自動車
 0 1
 0 1
 0 1
100から7を順番に引いてください。
(100-7は?、それからまた7を引くと?と質問する。最初の答えが不正会の場合、打ち切る)
   0 1
 0 1
私がこれからいう数字を逆から言ってください。
(6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、3桁逆唱に失敗したら、打ち切る)
2-8-6
9-2-5-3
 0 1
 0 1
先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点)
a)植物 b)動物 c)乗り物
a: 0 1 2
b: 0 1 2
c: 0 1 2
これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言ってください。
(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)
 0 1 2 
 3 4 5
知っている野菜の名前を出来るだけ多く言ってください。
(応えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり、約10秒間待っても出ない場合には、そこで打ち切る)
0〜5=0点、6=1点、7=8点、9=4点、10=5点
     0 1 2

  3 4 5

                               合計得点        点

②WAIS-Ⅲ(ウェイス・スリー)成人知能検査

 言語性IQ(VIQ)、動作性IQ(PIQ)、全検査IQ(FIQ)の3つのIQに加え、「言語理解(VC)」、「幾く統合PO)」、「作動記憶(WM)」、「処理速度(PS)]の4つの群指数を測定し、多面的な把握や解釈ができます。

群指数測定の下位検査
言語理解(VC)
Verbal Comprehension
知覚統合(PO)
Perceptual Organization
作動記憶(WM)
Working Memory
処理速度(PS)
Processing Speed
2.単 語
4.類 似
9.知 識
1.絵画完成
5.積木模様
7.行列推理
6.算 数
8.数 唱
13.語音整列
3.符 号
12.記号探し

③MMSE(Mini Mental State Examinnation:ミニメンタルステート検査)

 米国のフォルスタイン(Folstein)夫妻が1975年に考案した世界で最も有名な知能検査だと言われています。30点未満の11の質問からなり、見当識(現在の日時や日付、自分がどこにいるかなどを正しく認識しているかを測定する)、記憶力、計算力、言語的能力、図形能力などをカバーします。24点以上で正常と判断、10点未満では高度な知能低下、20点未満では中等度の知能低下と診断されます。

 2000年に著者らが著作権を主張し始め、現在では、MMSEのライセンス版は1テストあたり1.23ドルで購入することになっています。このことは問題提起として世界中に受け止められたようです。

④RCPM(Raven's Colored Progressive Materices:レーヴン色彩マトリックス検査)

 アメリカの心理学者J.C.Ravenによって1983年に考案された、失語症や認知症の知能検査に、世界中で広く利用されています。日本版は、杉下守弘氏(東京大学大学院教授)と山崎久美子氏(東京医科歯科大学教授)によって作成されました。適用範囲:45歳以上。所要時間:10〜15分。

問題は36問(12問3セット)あります。標準図案の欠如している部分に、6つの選択図案の中から合致するものを1つだけ被験者に選ばせる、言語を介さずに応えられ文化背景に影響されない検査です。

セットA 連続した模様の同一性と変化についての理解
セットB 個々の図の空間的に関連している全体としての理解
セットC 空間的にあるいは論理的に関連している図の相似の変化についての理解

⑤コース立方体組み合わせテスト

 1920年、アメリカのコースが発表した知能検査。

各面が赤、白、青、黄、赤と白、青と黄に塗り分けられた1辺3センチのリップ対立方体を組み合わせて、難易度順に並べられた17問の模様を作る課題です。正解時間によって得点が変わり、制限時間以内に2連続して課題が達成できないと打ち切りになります。(ウィキペディア)

●言語機能に関する検査

①標準失語症検査(SLTA:Standard Language Test for Aphassia)

 失語症の代表的な検査です。「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算」について、計26項目の下位検査で構成されています。項目ごとの評価は6段階で行います。

②WAB失語症検査

 言語機能の総合的な検査を目的にしていて、「自発語、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、言葉の構成」の8つの主項目の元、全38項目の検査があります。標準失語検査とともに、国内でも多くの言語聴覚士が使用しています。

③トークンテスト

 トークンと呼ばれる2種類の形、2種類の大きさ、5種類の色の組み合わせで総計20種類の板を用いる心理アセスメントで、口頭命令に従ってその色板を使った反応を検査します。聴覚的言語理解、短期記憶、構成力と構成活動を同時に検査します。

●記憶力の検査

①WMS-R(Wechsler memory scale:日本版ウェクスラー記憶検査)

 世界で最も使用されている総合的な記憶検査です。

言語を使った問題と図形を使った問題で構成され、13の下位検査があります。「一般的記憶」と「注意/集中力」の2つの主要な指標、および「一般的記憶」を細分化した「言語性記憶」と「視覚性記憶」の指標が得られ、「遅延再生」の指標も求めることができる評価法です。

100点を中心として15点が標準偏差(85〜115点が正常値)です。

検査の所要時間は約15分です。

②三宅式記銘力検査(東大脳研式記銘力検査)

 聴覚性言語の記銘力検査で、有関係対語(意味の関連性が深い言語)と無関係対語意味の関連性が希薄な言語)、それぞれ10の対語を記憶し、対語の一方を提示して、ついになる単語を答えるものです。3回実施する中でどの程度10に近づいていくかを検査し、記憶の形成、保持、再生と注意機能を評価する検査です。

頭部外傷では、特にこの無関係対語の成績が悪くなります。

国際的に使用されている検査ではありません。検査所要時間は約15分です。

③ベントン視覚記銘検査(BVRT:Visual Retention Test)

 アイオワ大学神経心理学ベントン教授によって1945年に発表された、高次脳障害のスクリーニングとして使われる視覚認知・視覚記銘・視覚構成能力を評価する検査です。

10枚の幾何学的図形の図版を一定時間(約10秒間)見せて記憶させた後に、「即時再生、5秒後再生、模写、15秒後再生」の課題を与えるタイプの心理テストです。図版形式は3種類あります。

④リバーミード行動記憶検査(RBMT:Rivermead Behavioural Memory Test)

 記憶障害を診断するために、1985年、英国ケンブリッジ大学のWilson博士らによって開発されました。国の支援事業(高次脳機能障害者支援事業)等でも使用されていて、国際的にも評価の高い検査です。

RBMTは大きく分けて9つの項目から構成され、所要時間は約30分で、専用の検査キットを使います。日常生活に近い状況を作り出し、記憶を使っている場面を想定して検査します。

この検査を実施することで記憶障害の程度を把握し、社会復帰に向けたりリハビリテーション・プログラムの立案や患者・家族への助言に役立てることができます。

⑤ミニメンタルステート検査(MMSE:Mini-Mental State Examination)

 アメリカのフォルスタイン夫妻が考案した、世界21カ国、100施設を拠点に認知症や記憶障害の検査方法として、最も広く用いられている検査方法です。

有意味、無意味の文字カードに対する記憶機能を測定します。

⑥レイ複雑図形再生課題(ROCFT:Rey-Osterrieth Complex Figure Test)

 Reyによって開発され、それを標準化検査として整備したのがベルギーのOsterriethです。

視覚性記憶、資格性認知、視空間構成、運動機能などを評価します

無意味で複雑な図形を見ながら描く模写、その直後に図形を見ないで思い出して書く直後再生、3分後に再び図形を見ないで記憶を頼りに再生する遅延再生の3試行で構成されます。

18項目に分けて採点され、各項目は2点満点です。

⑦自伝的記憶検査



●遂行機能の検査

①ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト(WCST:Wisconsin Card Sorting Test)

48枚のカードからなるウィスコンシンカードを用います。提示されたカードを、色(赤、緑、黄、青)、形(三角形、星型、十字型、丸)、数の3つの分類カテゴリーで並べ替えて、達成したカテゴリー数、保続数(※)、保続性誤り数によって評価する検査です。

この検査はコンピュータ版もあります。

遂行機能、概念の形成と転換、前頭葉機能が評価されます。

検査所要時間は約30分です。

※保続:脳損傷者全般に見られる症状で、被験者が自分の考えた分類カテゴリーに固執し続けることです。

②BAD(遂行機能障害症候群の行動変化)

 カードや道具を使った6種類の下位検査と1つの質問用紙から構成されています。24点満点で評価されます。

③前頭葉機能検査(FAB:Frontal Assesument Battery)

 FABはファブと読みます。

前頭前野が関与するとされている6項目を面接形式で測定します。18点満点で、健常な人であれば満点となります。

  1. 概念化課題 2つの言葉の似ている点を聞きます。
  2. 知的柔軟性課題 「○○から始まる言葉をできるだけたくさん上げてください」と質問します。言葉を作り出す領域(右利きの人では左半球の前頭前野)の活動を反映すると考えられています。
  3. 行動プログラム課題 
  4. 反応の選択課題
  5. 抑制課題
  6. 把握行動課題

④かなひろいテスト

 かなで書かれた短文を読みながら「あ、い、う、え、お」が出てきたら印を付け、同時に文章の意味を理解しているかを問うテストで、一度に二つのことを処理する能力を検査します。

⑤ストループテスト

 「文字の色」と「文字の意味する色」が異なる文字を見て、「文字の色」を答えていく検査です。

「文字の色」と「文字の意味する色」、この2つの情報を同時に目にすると、両方が干渉し合う現象をストループ効果といいます。

次に示す「文字の色」を答えてください。

        青 赤   赤 

いかがでしたか?そういうことです。

⑥トレイルメイキングテスト(TMT)

 Part A(注意持続と選択)と、Part B(注意の転換や配分)の二つで構成されます。

⑦パサート(PASAT)

⑧CADL実用コミュニケーション能力検査

●注意機能検査

 注意機能は脳機能の基盤となるものであり、記憶や言語機能、視空間認知機能などさまざまな高次脳機能に影響を与えるため、注意機能の評価は重要です。

①トレイルメイキングテスト(TMT)

 Part A(注意持続と選択)と、Part B(注意の転換や配分)の二つで構成されます。

②パサート(PASAT:Paced Auditory Serial Addition Task)

 認知機能を簡便に評価できる検査として世界的に普及しています。検者が一定間隔で聴覚的に1桁の数字を読み上げ、被検者がそれを加算していくという課題です。足し算が行われている間に次の数字が示されるため、計算をしながらも、すぐ前に示された数字を覚え、かつ次の数字を聞き取らなければなりません。

どんどん加算していくわけではなく、「1つ前の数字を加算する」ということです。

知能、計算能力の影響も受けます。

③標準注意検査法・標準意欲検査法(CA:Clinical Assessment Taaention・CAS:Clinical Assessment for Spontaneity

 この2つの検査は、脳損傷例に認められる注意の障害や意欲・自発性の低下を臨床的かつ定量的に検出・評価することを目的としています。

CATの開発元は日本高次脳機能障害学会です。

CASは、意欲の低下や自発性欠乏のレベルの評価を行うことを試みている検査です。

④数唱(ディジッドスパン)

注意機能はすべての高次脳の基礎となり、記憶や言語機能、視空間認知機能などさまざまな高次脳機能に影響を与える。このため、注意障害の有無をみることは重要である。臨床場面で注意機能を評価するには、数唱課題が簡便で良い。

 数唱には順唱と逆唱とがあり、ともにいくつかの数字を1秒に1数時ずつのスピードで単調に聴覚的に提示して、同じ順序で繰り返させる(ジュンショウ、あるいは逆の順序で繰り返させる(逆唱:例えば2−8−3と教示すれば3−8−2と答えさせる)。少ない桁数から始め、徐々に桁数を増やしていく。順唱が5桁あるいは逆唱3桁ができなければ注意障害があると考えてよいが、逆唱の方が障害に鋭敏である。

(武田雅俊:Treatable dementia.総合臨牀 Vol.60 1869-1874 2011)

⑤抹消検査

●その他

①ストループテスト

②金銭管理能力検査

③カテゴリーテスト

④Verbal fluency test

⑤標準高次視知覚検査(VPTA)

⑥クロヴィッツテスト

⑦ハノイの塔

⑧RDST(the Rapid Dementia Screening Test)

⑨触覚動作テスト

⑩標準高次動作性検査

⑪環境音認知テスト

⑫社会的出来事検査

⑬GATB(厚生労働省編一般職業適性検査)

⑭リズムテスト

⑮コース立方体テスト

⑯BIT行動性無視検査

⑰リヴァーミード行動記憶検査

⑱紐結び検査

⑲言語音認知テスト

⑳箱づくりテスト

21.レーヴン色彩マトリックス検査(RCPM)

22.4コマまんがの説明

23.読書力テスト

5.高次脳機能障害での認定等級
自賠責保険における等級です。

 等級  後 遺 障 害  保険金額 労働能力  喪失率 
 第1級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの  4,000万円  100%
 第2級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 3,000万円   100%
第3級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの  2,219万円  100%
 第5級  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの  1,574万円  79%
 第7級  神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの  1,051万円  56%
第9級   神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの  616万円  35%
 第12級  局部に頑固な神経症状を残すもの  224万円  14%
第14級   局部に神経症状を残すもの  75万円  5%

※被害者請求をすることにより後遺障害認定時点で上記の各保険金額が入金されます。

自賠責保険では、平成13年1月から専門医を中心とする自賠責保険審査会高次脳機能障害専門部会(高次脳機能障害審査会)を設置して、認定システムの運営を開始しました。
さらに、平成19年より新たな認定システムによる認定審査が行われています。
 

6.認定等級の違い
等級の認定は診断書等の書類による審査で決められます。
よって、適切な後遺障害診断書等、およびその前提となる適切な検査資料等を提出適切な後遺障害等級の認定は望めません。

確かな高次脳機能障害サポートには経験が必要です。

7.検査・評価におけるサポート

高次脳機能障害の診断には多くの検査が必要になります。治療に関して前向きに取り組まれる医師が多いのは当然ですが、一通りの治療が進んだ時点で、様々な検査等をしていただける病院は意外に少ないのも現実です。医師は現代医学を駆使して手術、治療をすることが使命であり、後遺障害の等級認定には関心が薄くなることも仕方がないことなのです。

医師のプライド等からなのか、医師が後遺障害を認めたがらないケースもあります。

後遺障害の立証においては、本人、ご家族お話を伺い、MRIやCTの画像、作業療法士等にしていただいた検査結果等を取り寄せたり、病院に同行したりしてその分析をします。病院のご紹介もしています。

すべてのノウハウをここに書くことはできませんが、様々な制度や後遺障害の等級認定申請においてトータルのサポートができるのは、交通事故の業務を専門とする我々であると自負しています。

8.活動理念・活動方針
被害者とそのご家族の生活を考え、気を長くもち、腰をすえて、交通事故後の問題を横断的にサポートします。


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