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逸失利益とは
交通事故に遭いさえしなければ、将来得られていたであろう経済的利益やのことです。つまり、労働能力が低下したことによる減収分がこれに当たります。生活上の不便さも金銭に換算されます。
逸失利益は死亡事故や等級が認定された後遺障害の場合に支払われます。
休業損害と逸失利益
治療を受けるために休業を余儀なくされた休業損害と、症状固定となったが後遺障害のため労働能力が十分でない、という逸失利益があります。
①休業損害
○給与所得者の休業日数は、勤務先に「休業損害証明書」を書いてもらいます。
○自営業者の場合は、実際に治療を受けた日数が休業日数になります。
実治療日数は、診療報酬明細書で証明できます。
○家事従事者の場合は、実際に治療を受けた日数が休業日数となります。
○事故前3ヶ月間の収入を合計し、合計額を90で割り1日あたりの収入額を算出します。
事故前1年の給与総額から割り出すこともできます。
1日あたりの収入額に休業日数を乗じて休業損害を求めます。
○実質の収入源がなければ請求はできません。
○ボーナスが減った場合も、休業損害と認められます。
○有給休暇を使用した場合も休業日数に加えられます。
○労災が認定されて給与の6割が保証された場合には、残りの4割しか請求できません。
○休業期間中も会社が給料を全額支払っていた場合は請求できません。
②後遺障害による逸失利益
後遺症を負ったことにより、交通事故前のように就労することができなくなり、よって収入が減少するために失われる利益を意味します。
被害者が治療を継続しても症状の改善を望めない状態(症状固定)になった場合、損害料率算出機構により等級認定が行われ、その等級認定を元に逸失利益は算定されます。算定式は、原則として、次のようになります。
(基礎年収)×(認定された等級に対応する労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間・就労可能年数に対応するライプニッツ係数)
例えば、年収400万円の30歳の男性が4級の後遺症を負った場合、労働能力喪失期間・労働可能年数は37年とされ、これに対応するライプニッツ係数は16.11であり、労働能力喪失率は92%とされますので、逸失利益の計算は次のようになります。
400万円×92%×16.711=6149万6480円
逸失利益の損害賠償請求が認められる場合、原則として、加害者は全額を一括で(一時金として)支払わなければなりません。したがって、症状固定時から就労可能年限までの中間利息を、損害賠償額から控除する必要があります。そこで、将来収入を得るはずであったときまでの年5%の利息を複利で差し引くために、特段の事情が無い限り、年5%の割合による「ライプニッツ係数」を用います。
外貌醜状の逸失利益
外貌とは、頭部、顔面部、頚部など、露出している部分のうち、上肢及び下肢以外の部分を指します。眉毛、頭髪等で隠れる部分は含まれません。
外貌醜状自体は、デスクワークや肉体的な労働能力に影響を与えませんが、就職や対人折衝においては不利益が生じることもあります。判例上も逸失利益を認めるものと、認めないものに分かれています。
逸失利益があるとされた場合では、67歳までの就労可能年数を期間とするのが原則ですが、外貌醜状の場合は、喪失期間が制限されることが多いようです。
労働能力が喪失していないとされたケースでも、後遺症慰謝料が増額されることもあります。
ケースバイケースで検討が必要です。
→「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書」(厚生労働省)
死亡による逸失利益
交通事故で死亡した場合、死亡した人が将来に亘って得られるはずだった利益を失う(逸失利益)ことになります。
死亡にいたるまでに入院をして治療を受けていれば、それは傷害の場合と同じです。
逸失利益の金額は、生活費控除後の起訴収入額に、就労可能年数に対応した中間利息控除係数を乗じて算定します。
老齢年金、障害年金は、判例上、逸失利益として認められていますが、遺族年金は認められていません。
年金生活者の逸失利益は、年金収入だけに限られず、例えば、年金生活者が家事従事者であった場合、家事従事者としての逸失利益も認められる場合があります。
■死亡逸失利益の算定方法
(基礎収入額)×(1−生活費控除率)×(就労可能年数に対応するライプニッツ係数)
■収入額の認定
①給与所得者
事故前年の源泉徴収表、または「所得証明書」によります。
現実の収入額が賃金センサスの平均賃金額を下回っている場合には、将来、平均賃金程度の収入を得 られる蓋然性があれば平均賃金額が基礎収入額となります。
なお、若年労働者(事故時概30歳未満)については、原則、賃金センサスの全年齢平均賃金額が基礎年収額となります。学生の場合に賃金センサスの平均賃金を用いることとのバランスを考慮されています。
②事業所得者
商工業者、農林・水産業者、自営業者、自由業者等の事業所得者は、事故前年の申告所得額を採用します。但し、現実の収入額が申告所得額よりも高いことを証明した場合には、現実の収入額が年収額として認められます。その場合は、帳簿や銀行取引明細等の財務関係書類によって所得額を証明します。
所得が資本利得や家族の労働等の総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄与割合によって算定されます。
③家事従事者
賃金センサスの女性労働者・全年齢平均を基礎に算定します。
パートタイマーやアルバイトを兼業する主婦の場合、実際の収入が上記の平均賃金より多い場合は、実収入によります。平均賃金より下回るときは、平均賃金により算出します。
④会社役員
労務提供の対価部分は認められるが、利益配当の部分は認められません。
⑤失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性が認められれば、予定収入額を基礎とします。
失業前の収入も参考にしますが、賃金センサスの平均賃金以下であても、平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別の平均賃金によることとなります。
⑥学生
賃金センサスの全年齢平均賃金額を基礎収入額とします。
なお、女子の場合は、男女別ではなく、全労働者平均賃金で計算すべきという判例がありますので、その判例に沿って請求すべきです。
⑦高齢者
就労の蓋然性が認められる場合には、賃金センサス年齢別平均の賃金額により基礎年金額を算定します。
■就労可能年数
就労可能年数とは、被害者が死亡しなければ働けたであろう期間のことをいいます。
・労働能力喪失期間は、「症状固定」の日から始まります。
・原則として67歳までの年数
・上記の期間は、後遺障害の等級、職種、地位、健康状態、能力等によって異なります。
・67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる場合は、平均余命の2分の1で端数を切り上げた年数で計算されます。
・年金の逸失利益については、平均余命年数になります。
・幼児、学生の就労開始年齢は高校卒業の18歳となります。
・大学生は大学卒業時を基準とします。
神経障害の後遺症については、67歳までの労働能力喪失機関が認められることはまれです。たとえば、むち打ち症の場合は、後遺症等級12級で5年〜10年、14級で5年以下が目安となります。むち打ち症などの神経障害は、この程度の時が経過すれば治癒していくことが一般的であるという医学的判断に基づいているからです。
■収入額から控除される項目
①生活費控除
被害者の死亡によって、逸失利益が発生する一方で、被害者が生きていた場合に必要とされる生活費を 控除しようという考え方です。
・一家の支柱(被扶養者1人の場合)40%
・一家の支柱(被扶養者2人の場合)30%
・女子(主婦・独身・幼児を含む) 30%
・男子(独身・幼児をふくむ) 50%
②中間利息
中間利息控除は、ライプニッツ式により、年5%の割合で控除されます。
被害者が、将来に亘って取得する予定であった利益を現時点で一括受領をして運用を行った場合、本来は得られなかった利息を得ることになりますので、現在と将来の中間に発生する利息については、前もって控除するという考え方です。
③税金
現在は、非控除説が有力です。
④幼児の養育費
最高裁は非控除説を採用しています。
自賠責基準における逸失利益の計算方法
・30歳未満の人の場合は、「事故前1年間の収入額」か、「全年齢平均給与額」又は「年齢別平均給与額」のいずれか高い額で算出されます。
・30歳以上の人の場合は、「年齢別平均給与額」で算出されます。
・幼児・児童・生徒・学生・家事従事者:全年齢平均給与額の年相当額を元に、「有職者)の計算方法に準じて算出されます。
逸失利益:会社役員の場合
【労働対価部分を判断する際に検討すべき要素】
■会社の規模
・大企業の取締役──役員報酬の全額が、労務対価部分と評価できるケースが多いといえます。
・小企業のオーナー──役員報酬の中に、労務対価性に欠ける利益配分が含まれている可能性があります。
・小企業の役員──利益配当部分が少ない傾向があります。
■会社の利益状況
・役員報酬が会社の規模から見て相当高額な場合──会社の業績がよければ、その報酬が不当に高いとはいえません。
・実務では、事故後の役員の稼動状況との関係で、事故後に会社の利益が減少しているかどうかが検討され、役員の稼動が会社の利益に与えている影響などを元に判断されます。
■役員の地位・職務内容
・名目的な取締役の場合──役員報酬は、労務対価部分とはいえません。
・名目的取締役が主婦の場合──家事労働の部分が基礎収入と認定されます。
・名目的な取締役で無い場合──労務対価部分の割合は、高いと判断される傾向にあります。
■役員報酬の額
・同族会社で代表取締役の子が取締役の場合──年齢が若く経験が浅いのに高額の役員報酬を得ていれば、利益配当部分が相当含まれていると考えられます。
・業績が伸びていないのに、急激に報酬額が増額した場合や、業績が低迷しているのに、高額の役員報酬が支払われている場合──利益配当部分の割合は高いと判断されます。
■事故後の役員報酬額の減少等
・事故後に働けなかったことに応じて役員報酬が減額や支給されなかった場合──相当部分が労務対価性を持つと考えられます。
※労務対価部分を判断するためには、この他にも様々な要素を慎重に検討する必要があります。
労働能力の喪失が問題となる後遺障害
・醜状障害 それ自体では肉体的な労働能力に影響はありません。
・歯牙障害
・鎖骨変形 鎖骨骨折後に変形治癒した場合に12級になる場合があります。
・脊柱変形 多くの場合、20%の労働能力喪失率が認められます。(詳しくは→こちら)
・腓骨(下腿の後ろ側にあり脛骨と並ぶ管状の長骨)の偽関節(骨折部の骨の癒合が起こらず、異常な可動性が見られる状態)
・嗅覚脱失(脳損傷の後遺症で嗅覚を失う場合もあります)
・味覚障害 調理師、主婦などは労働能力の喪失が認められる傾向があります
・脾臓(老化赤血球の処理をする)の亡失
判例
①東京高判01(平成13)年8月20日
交通事故で小学6年の娘を無くした父親から加害者に対する損害賠償請求がなされた事案で、「本来、労働能力には性別による差は存在せず、少年や少女には多様な就職の可能性がある。少女の交通事故に際して女子労働者の平均賃金を採用するのは理由のない差別で合理性を欠く」「女児の逸失利益に全労働者の平均賃金を用いても、少年に男子労働者の平均賃金を用いると、なお男女差が残る。今後は、男女とも全労働者の平均賃金を用いるのが分かりやすく適当と考える」として、全労働者の平均賃金を基準にして逸失利益を算定した一審判決を支持した。
②大阪地裁平成6年4月25日
顔面醜状(12級)と歯牙障害(12級)で併合11級の男児について、18歳から67歳まで10%の労働能力喪失を認めた。
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