慰謝料請求

交通事故における慰謝料

 ◎交通事故での被害は逸失利益だけでなく、精神的苦痛があります。

 治療費は、病院発行の領収書で、明確に計算されます。慰謝料は、一定の基準で計算されます。その基準には、「自賠責基準」「裁判基準」等があります。それぞれ傷害の程度に応じて14級(重度後遺障害は別に2級)に区分されています。このうち、自賠責基準は、毎日発生する自動車事故について一件一件状況を調べ、厳密に被害や精神的苦痛の程度を計ることはできないため、あくまで“便宜上設けられたもの”に過ぎません。しかも、金額が3つの基準の中で最も安いため、保険会社の多くは自賠責基準を適用しようとします。これに対する裁判基準は、過去の判例の蓄積により定められた慰謝料の基準です。また保険会社の基準は、この中間として保険会社が独自に設定している金額の基準です。

 そもそも慰謝料は、被った精神的苦痛を慰めるためのものなので、「とても苦痛を感じた」と本人が思うのであれば、上記の基準に合わせて考える必要はなく、独自の額を請求しても構わないのです。この場合、自分が被った精神的苦痛を計算し、保険会社に請求することになります。

交通事故の慰謝料の出し方(算出方法)は

 精神的な苦痛に対する慰謝料について

 交通事故の被害者は、多大な精神的苦痛を負います。慰謝料は、思う限りの金額で請求しても構わないものの、いくら精神的被害が大きいとはいえ、一般的なサラリーマン相手に数億円の慰謝料請求をするのは常識的ではありませんし、損害と請求額に隔たりが大きすぎる場合には反対に恐喝罪で訴えられかねません。

 根拠や妥当性を示して請求することで正当な請求となります。交通事故、子供の養育費などは多くの判例や統計を踏まえて設定された計算式があり、それに基づいて損害額を算出し相手方に請求します。万が一、裁判となっても根拠ある妥当な請求であれば認容されるでしょう。逆に根拠なく過大な請求または不当な請求とみなされると当然に認められません。

いかに損害額を妥当に見積もるか、正当な請求であることを示すかが重要です。

慰謝料を算出するに当たって考慮される、被害者側の事情、加害者側の事情は下記のとおりです。

@被害者側の事情

 ○傷害の場所、傷害の程度

 ○入院・通院期間

 ○被害者の社会的地位、収入

 ○年齢、性別

 ○固有の事情(事故が起きたことによって、離婚や流産等が生じた。将来の夢が立たれた等) 

A加害者側の事情

 ○スピード違反、飲酒運転、無免許運転などの不法行為の有無・程度

 ○重過失、ひき逃げ等

 ○居眠り運転

 ○謝罪や見舞いの有無、示談交渉における加害者の態度や姿勢

 ○証拠隠滅(事故の後にも飲酒をして飲酒運転していた事実を隠蔽するなど)

これらの事情を総合的に考慮した上で、慰謝料を算出します。

 

死亡事故における慰謝料請求権

「死者の慰謝料請求権」と「固有の慰謝料請求権」があります。

「民法710条 他人の身体等を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負うものは、財産以外の損害に対しても、その損害を賠償しなければならない。」

○「死者の慰謝料請求権」について

 生命侵害の場合、被害者に固有の慰謝料請求権があるか、という争いがあります。感覚的には死者に慰謝料請求権は生じないという気がしますが、判例は相続肯定説をとっています。

○「固有の慰謝料請求権」について

 被害者の父母、祖父母、孫、兄弟姉妹、内縁の配偶者なども損害賠償請求ができる場合もあります。

 相続とは関係しません。

 死亡した人の両親が離婚していても、その両親に対して、「近親者固有の慰謝料請求権」は認められます。また、被害者が死亡した場合でなくても、被害者の傷害によって近親者が死亡にも比肩しうる重大な精神的苦痛を受けた場合にも慰謝料が請求できると解されています。

「民法711条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権を害されていない場合にも、損害の賠償をしなければならない。」

判例

 不法行為による生命侵害があった場合、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に直接しうることは、民法第711条が明文をもって認めるところであるが、右規定はこれを限定的に解するべきものではなく、文言上同条に該当しないものであっても被害者との間に同条所定のものと実質的に同視しうるべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたものは、同条の類推適用により、加害者に対し直接的に固有に慰謝料を請求しうるものと解するのが相当である(最高裁判決昭49.12.17)

 

・親の慰謝料

 亡くなった方に親がいる場合は、法定相続人ではない親にも慰謝料請求権があります。

 この場合、慰藉料の配分比率がきまっているわけではありません。遺族の間で慰謝料の配分について話がまとまる場合はそれに従えばよいことですが、話し合いがまとまらない場合は専門家に相談して裁判例などを参考にして再度話し合うか、または調停などの手続を踏むことになります。

相続で一旦争いが起きると、どんなに説得力のある説明をしても、感情が障害となり、相手が首を縦に振ってくれなうということにもなりかねません。そうなるまえに、早めに専門家に相談することです。

 

身分関係別に記してみます。
・内縁の配偶者
 かつての判例は、否定していました(大判昭7.10.6)が東京地判昭43.12.10では、711条を類推適用して認めているようです。但し、地裁レベルです。
・未認知の子
 親子としての実質生活関係があれば、711条を類推適用すべきである(東京高判昭36.7.5)
 但し、地裁レベルです。
・祖父母
 711条所定の近親者がいない場合、祖父母と孫(東京地判昭42.11.20)。兄弟姉妹(最判昭49.12.17)にも類推適用される場合があります。
豆知識:
711条は、近親者が慰謝料を請求するのは、被害者が死亡した場合に限られているように見えます。
しかし、判例は「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛」を受けた場合には、711条としては否定されるが、709条、710条を根拠に近親者固有の慰謝料請求を被害者本人と並存して認める」としています(最判昭33.8.5)

 

■死亡遺族の慰謝料に関する判例
@(片山隼君事件)−民事訴訟事件
平成9年発生の8歳男子の死亡事案で、加害大型車を横断歩道上に停止させ、死人するのが難しい状況を自ら作り出し、細心の注意を払わず発進轢過したことなどを斟酌し、被告不起訴に対し審査申し立てで有罪となったことには「真相の究明に向けての両親の熱意と努力も慰謝料額を算定するにあたって十分に斟酌すべきものである」
死亡慰謝料2600万円を認めた事例。
 東京地裁 平成13年3月15日判決(確定)
 平成11年(ワ)12075号 損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1395号

A24歳女子の交通事故での死亡により、その母親がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患し、事故から約1年間、呼吸困難、睡眠障害、体重減少、下痢、発熱、決断力低下、場所・人の感覚喪失、混乱、悪夢、悲しみ、引きこもり、食欲低下等々の症状を呈したため、傷害及び後遺障害慰謝料として2000万円を請求する事案で、右母親は本件事故における直接の被害者ではなく、関節被害者である母親は、当該不法行為当事者として独自に損害賠償請求権を取得することはできないとして、母親固有の慰謝料300万円を認めた事例。
ただし、被害者姉の固有の慰謝料請求は否認した。
 大阪高裁 平成14年4月17日判決
 事件番号 平成13年(ネ)第914号・第1959号 損害賠償請求控訴・附帯控訴請求事件
 (1審)奈良地裁 平成13年1月31日判決
 事件番号 平成11年(ワ)第204号
 <出典> 交民集35巻2号323頁
 (原審) 交民集34巻1号165頁

 

B9歳の長男の轢過死を目撃した母親のPTSDによる直接損害(休業損害)を否認、固有の慰謝料600万円を認めた。原告父の慰謝料は200万円認めた。
 東京地裁 平成15年12月18日判決(確定)
 事件番号 平成14年(ワ)第11195号 損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1552号(平成16年8月5日掲載)

 

■その他の費用
@教育費
 証拠(略)及び弁論の前趣旨によれば、原告○○が、○○小学校に対し○○の入学金、設備拡充費及び寄付金として合計65万円、制服その他の備品購入費として少なくとも合計35万円をそれぞれ支出したことが認められるところ、○○の死亡によって、右各費用がすべて無駄になったと言わざるを得ないから、右各費用は、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
 東京地裁 平成6年10月6日判決
 事件番号 平成4年(ワ)第20409号
 <出典>自動車保険ジャーナル・第1110号
 交民集27巻5号1378頁 自保ジャーナル・判例レポート第123号−bP3

A帰国費用その他
 母親の死亡により、その子供が留学先の米国から帰国した際の交通費23万円が事故と相当因果関係のある損害と認めた事例。
 東京地裁 平成7年7月4日判決
 事件番号 平成6年(ワ)第10684号 損害賠償請求事件
 <出典> 交民集28巻4号1039頁

B親族の治療費
(ア)原告○○は、本件事故後、母乳の分泌を止める治療を受け、治療費として4,420円を支払った(証拠略)。これは本件事故と相当因果関係を有すると認められる。
(イ)原告○○は、本件事故による強いストレスのため、○○医大病院で心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されて、平成12年6月から平成13年11月までの間、同病院で治療を受け(証拠略)、さらに、平成14年1月からは○○女子学院の○○医師の治療を受け(証拠略)、治療費として、愛知医大病院に3万9,970円(証拠略)、○○女子学院に8,000円(証拠略)の合計4万7,970円を支払った。
 名古屋地裁 平成14年12月3日判決(控訴中)
 事件番号 平成13年(ワ)第1157号 損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1486号(平成15年4月3日掲載)

C扶養権侵害
 内縁の妻への扶養権侵害が逸失利益の50%認められた事例。
 61歳男子会社員の夫死亡による内縁の妻が扶養権喪失による損害を請求する事案で、披露宴を催し、10年以上にわたって継続していたことから、センサス基礎に算定した逸失利益の50%が認められた。
 東京地裁 平成12年9月13日判決(甲事件確定、乙事件控訴)
 事件番号 平成10年(ワ)第3347号(甲事件)
      平成11年(ワ)第11703号(乙事件)損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1376号 

 

■慰謝料の増額事由

・扶養家族の数
 扶養家族が多数の場合には、増額事由として斟酌されます。

・加害者側の事情
 加害者の悪性事情を考慮して、慰謝料増額を認めたものがあります。

 @故意

 A無免許運転、ひき逃げ、飲酒運転、著しいスピード違反、信号無視、未必的故意、居眠り運転等

 B大幅な速度違反、赤信号無視等

 C救護義務違反

 D加害者の著しい不誠実 (ひき逃げ、証拠隠滅、謝罪なし、虚偽の弁解、否認、加害者側からの訴訟提 起等)

 E加害者が被害者に脅迫電話等をかけた場合

・被害者側の事情

 @流産、中絶

 A婚約破棄、離婚

 

■胎児が死亡した場合

 胎児には刑法上の人格権がなく、逸失利益の請求をすることはできませんが、慰謝料の請求はすることができます。ただし、胎児の死亡についての慰謝料は、明確に基準化されていません。

判例もまちまちで、150万円〜1000万円(妊娠の期間によって判断が異なるようです)の慰謝料が過去に認められています。

 

■胎児を死産した場合の慰謝料の判例
@1週間後結婚式の35歳男子の生活費控除率を30%、30歳女子の胎児死亡慰謝料を300万円認めた。
 大阪地裁 平成17年3月11日判決(控訴和解)
 事件番号 平成16年(ワ)第2854号 損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1613号

Aシートベルトが食い込み、妊娠18週で子宮内胎児死亡の慰謝料350万円認定。
 大阪地裁 平成13年9月21日判決(確定)
 事件番号 平成13年(ワ)第338号 損害賠償請求事件
 <出典> 自動車保険ジャーナル・第1437号
       (平成14年4月4日掲載)

ただし、こんな判例もあります。
B同乗中の妊娠9ヶ月目の妊婦である被害者が、追突事故に遭い、子宮内で胎児が死亡、その8日後に女児を死産した事案で、右死産と本件事故との相当因果関係が否定された事例。
 旭川地裁 昭和54年8月6日判決
 事件番号 昭和51年(ワ)第267号 損害賠償請求事件
 <出典> 交民集12巻4号1087頁

 

自賠責保険、任意保険の怪我の慰謝料

 保険会社が主張する慰謝料の金額は、通常、自賠責保険基準や任意保険基準によります。これらの基準は日弁連基準の入・通院慰謝料よりも低いものです。

@自賠責保険の慰謝料

 自賠責保険は、自動車にかけられる保険なので、自動車事故にあって損害が発生した場合には、誰が運転していようとも、保険が支払われます。

 自賠責保険の慰謝料は1日につき一律4200円が支給されます。下記の日数を掛け合わせて算出されます。

 1.入院期間+通院期間

 2.実通院日数(入院期間+通院機関の中で実際に病院に通った日数)×2

 これら2つを比べて、日数が少ないほうを採用します。

 自賠責保険の慰謝料等は120万円が上限額です。

 後遺症による慰謝料の上限は4000万円です。

 死亡の場合の慰謝料の上限は3000万円です。

 超えた部分については加害者の任意保険に請求することになります。

 A任意保険の慰謝料

 自賠責保険の支払い総額が120万円までと決まっていますので、その超える部分については、任意保険から支払われます。

 各任意保険会社には「支払基準表」(サンプルがありますのでお問い合わせください)がありその表から算出します。これらの基準は自賠責基準と大きく変わるものではありません。 

 慰謝料の支払額は、被害者の社会的立場や住居地域によっても変わることがあります。

 任意保険の慰謝料日額単価は、自賠責保険のように固定されていません。被害者の方が納得すれば計算より低い金額でも示談が成立します。注意が必要です。

B被害者の近親者固有の慰謝料請求権

 民法711条は、不法行為による生命侵害があった場合、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求できる、と定めています。

 条文では、「他人の生命を侵害した」と記述されていますが、生命侵害に比肩しうる程の精神的苦痛を近親者が被ったとき、例えば娘の顔に一生消えないほどの深いキズを負った場合の両親などの近親者に固有の慰謝料請求権が認められます。

 交通事故被害者の「父母、配偶者、子」に類似する者(内縁の妻、祖父母、兄弟姉妹、婚約者、事実上の養子など)も、裁判上、固有の慰謝料を請求することができる場合があるとされています。最高裁判例は、「右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しないものであっても、被害者との間に同条所定のものと実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたものは、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうる」としています。ただし、相当例外的な場合と考えてください。

 配偶者であっても、離婚を前提に別居中に事故が発生した場合には、固有の慰謝料が否定される場合があります。

 近親者の慰謝料は、個別具体的に判断されますが、多くとも数百万円にとどまることが一般的です。

 死亡慰謝料は被害者の属性等に応じて基準額が定められており、その基準額は、死亡した被害者本人分の慰謝料と近親者固有の慰謝料の総額として定められていますので、近親者慰謝料の請求権者が増えても基準額内部での配分が変わるだけで、総額が増えるわけではありません。

訴訟の場合、原告の数が増えれば自動的に慰謝料額が増額するのは、かえって不公平であるという考えから来ています。

 重度後遺障害の場合の近親者慰謝料は、加算される傾向にあります。

  

 お問い合わせ・ご相談は←ここをクリック  

▲このページのトップに戻る